けいえい知っ得のブログ記事
おにぎり屋たんと【事業拡大編】~第八話~
『・・・・なるほど。宅配サービスですか。』
「はい、そうなんです。結構反響があって・・。
商売になるんじゃないかと思って。」
ここ最近の出来事などを海苔巻さんにかいつまんで話す。
お客さんの反応なども一緒に。
『ふむ・・・。そうですね。考えてみる余地はありそうですが・・。』
いいですね!やってみてはいかがですか?
そんなストレートな答えをどこかで期待していた私は、
歯切れの悪い相手の様子に少し不満を覚える。
お客さんの反応は上々、電話でのお問い合せもある。
実際の注文もある。
けれど、今の経営体制というか店の状態だと
それは手が空いた時のサービスとしてしかすることは出来ない。
だから、新たな展開として『宅配サービス』なるものを考えたのだ。
「・・・・・駄目でしょうか。」
ちょっとばかり、そんな思いが声に滲み出ていたのかもしれない。
『ああ、いえ。そういう訳ではないのですが・・・。』
少し、苦笑まじりの返答が返ってきた。
「けど、あんまり乗り気というかおすすめって感じでもありませんよね?」
言外に何が駄目なんだ、という思いがあるせいか
ちょっとけんか腰で言ってしまったかもしれない。
納得出来ないことにはついつい強い口調で相手につっかかってしまう。
私の悪いクセだ。
今度は少し困ったような様子で、
海苔巻さんが宥めるような口調で話かけてくる。
『ああ、申し訳ありません。小町さんの案が駄目という訳ではなく・・。
ただ、ちょっと不安要素があったものですから。』
その言葉に、今まで強気だった私は今度は一転して弱気になってしまう。
「・・・不安要素、ですか?」
『はい・・・ええと・・・。そうですね。
今からきちんと更に詳しく小町さんのお話を聞くのも、
私から小町さんに納得頂けるお答えを返すのにも
時間が少々足りないかと思いますので・・。』
一度ご都合が良い時にお会いできませんか?と海苔巻さんから提案されて。
「・・・わかりました。
ええと、確かそちらは暦通りの営業をされていましたよね?」
平日営業、土日祝日はお休み、と分かりやすかった気がする
と思い尋ねてみればそうです、と返事が返ってくる。
「では、丁度明日は定休日なので・・
明日お伺いするので宜しいですか?」
カレンダーを横目に見て日を告げる。
どうやら海苔巻さんの都合も良いらしく
明日会うことで決定し日時を決めて電話を切った。
(・・・・駄目出しだらけやったらへこむなぁ・・。)
結構自信あったのに、何が駄目なんだろうか・・と首を傾げながら。
電話がかかって来る前に書いていた計画表(とも言えないメモ書き)を
眺めたのだった。
第9話へつづく。
おにぎり屋たんと【事業拡大編】~第七話~
「はい、もしもし。小町でございます。」
鳴り続ける電話の受話器をあげて、耳にあてると一時期の交流で
すっかり馴染み深いものとなった声が聞こえてくる。
『もしもし、久保田会計事務所の海苔巻です。お久しぶりです、小町さん。』
その後お変わりはありませんか?
そう尋ねる声の主は。
確定申告より少し前の時期。まだ寒い季節の頃。
帳面の付け方に困って頼った先の会計事務所さんでお世話になった
海苔巻さんだった。
「あ、どうも。お久しぶりです!海苔巻さんもお変わりはありません?」
こんな感じで、相談ごとが終わった後も海苔巻さんは時々心配して
電話をかけてきてくれていた。
なので、以前の様に事務所に出向くことはなくても
縁は切れずに今もずっと疎遠になることなく続いていたりする。
『はい、巷で大流行だったインフルエンザにもおかげさまでかかることなく
なんとか元気にお仕事をさせて頂いていますよ。』
笑いを含んだ声で返事が返ってきた。
「あー、あれは私もビクビクしていましたよ。」
なんせ食べ物を扱う店なだけに、食中毒は言うまでもなく。
人にうつる病気も風評被害の元だ。
かなり神経を使って、インフルエンザにかからないように注意を払っていた。
『お互いなんとか免れたようで良かったですね。
けれど、以前ほど騒がれていないだけで、
確実に感染者数は増えて未だに流行中であることはお忘れ無く。』
「え、そうなんですか?」
ああ、けれど。言われてみれば・・・・。
新聞やニュースで大々的に報じられることは減ったけれど、
小さな記事などで「感染者数○千人突破」などという見出しを
見たような気がする。
『はい、ですから気を緩めた途端・・ばたん、キュー。
という事態にならないように小町さんも気をつけてくださいね。』
「・・う、そうですね。はい、気をつけます。」
確かに、それでは今までの頑張りが水の泡だ。
信用や安全性といったものは得るのも難しいが取り戻すのはもっと難しい。
『お互いがんばりましょう。
・・さて、では世間話はこれくらいにいたしまして。
その後お商売の方は特にお変わりはなく、順調でいらっしゃいますか?』
毎回恒例となった海苔巻さんのこの「お困りのことはありませんかコール」。
いつもなら大丈夫ですよ、と報告するのだけれど。
「ええっと、ですね。実は今考えてることが一つありまして・・。」
電話口から、おや?という気配が伝わってくる。
『そうなんですか。それはお聞かせ頂いても?』
まだ構想中で、人に聞かせられるほどしっかりしたものではないのだと言うが・・
『それでも構いません。差し支えなければ聞かせて頂けないでしょうか。』
少し迷ったものの、結構今回の思いつきには自信があった。
けれど、新しい事を始めるのにはやはりどこか不安もつきまとう。
ならば、海苔巻さんに「大丈夫」とお墨付きをもらえれば安心なんじゃないか。
そう思って。
「・・・わかりました。」
私は、簡単に一連の流れと自分の思いついたことを
海苔巻さんに話すことにしたのだった。
第8話へ続く
おにぎり屋たんと【事業拡大編】~第六話~
ひょんなことから配達をサービスで始めた小町さんでしたが・・・。
その後、どうなったのでしょうか・・・・?
+++++++++++++++++++++
あれから数日が経ち。
ご近所付き合いの場である井戸端会議で広まったのか、
問い合わせの電話が数件ではあるが、
かかってくるようになった。
中には配達します、とどこにも出していないにも関わらず初めから
配達での注文を希望してくる人もいて・・・。
初めは仕方なくで引き受けたことだったが、
徐々にその気になってきた自分がいた。
口コミで、これだけ反応があるのなら・・・もしかして?
と思ったのだ。
「・・・えーと・・。もし商売にするとして・・
やっぱり必要なのは『足』と『人手』かなぁ・・。」
店じまいのあと。本日分の帳面つけも終えてのささやかな自由時間。
私は、本格的に「配達サービス」について考え始めていた。
店番は今までは家族が、手伝える時にだけ来てくれていたが・・・・。
注文を受けるとなれば、常に誰かがいなければいけなくなる。
となれば。
店番を自分でして配達は「バイト」を雇って行うのがいいのだろうか・・。
見知らぬ人に店番はやはりちょっと抵抗があるし。
「あと、どこまで回るかやなぁ・・・。」
地図とにらめっこをしてうーん、と唸る。
会社さんから注文が入ったら結構大きいと思うし・・。
オフィス街は配達地域にいれるべきだろう。
「・・・そういえば。自転車ではしんどいかなぁ・・。」
南はともかく北方面は登りになるので自転車では大変かもしれない・・。
それに、時間もかかってしまう。
ピザ屋と対決しようとまでは思わないが・・。
「・・・・・・バイク・・いるやろうか・・。」
これはちょっと痛い出費かもしれない。
採算が取れると確証があれば、今は厳しくとも・・と思うが・・
(いける・・?
・・・いや、でもなぁ・・そんなに甘くは・・
でも、これだけ反響があるなら・・。)
ぶつぶつと独り言を呟いて。
ああでもない、こうでもない、と
自分で立てた計画を紙に書き出していると、
ふいに電話の音が鳴り響いて顔をあげる。
考え事を中断せざるを得なくなり、眉をよせたが無視するわけにもいかず。
ひとまず配達のことは頭の隅にやり、電話に出たのだった。
おにぎり屋たんと【事業拡大編】~第五話~
『あんた見たことある顔やな。そこのおにぎり屋さんのとこの子か?』
新たに会話に加わった近所の人らしき人に声をかけられた。
「あ、はい。そうです。」
店は今日は休みなのか、と問うその人に。
『そうそう。あそこの子やねんけどな。
今日はうちが頼んでおにぎりを持って来てもろたんよ。』
家主が代わりに自慢げにそう返事を返して苦笑する。
『へぇ・・よくある配達ってやつかいな。
あんたのとこのおにぎり食べたことないけど、
配達来てくれるなら食べてあげてもええで。』
おにぎりの配達、というのが珍しかったせいか
興味をもったらしいその人が笑いながら言う。
「ありがとうございます。けど、これは店番が居る時しか出来ないので・・」
流石に安請け合いは出来ない、とやんわりと断ろうとしたのだが・・。
『そうなん?じゃあ、店番居る時にお願いするわ。
あんたのおにぎりこの人がよう「美味しい」って言うから
食べてみたいねん。』
「奥さん方揃って口がお上手やわ。・・・わかりました。
その代わり、気長に待っていてくださいよ?」
その後によくよく聞けば、このご近所さんは
色々と事情があってあまり家を空けることが出来ないらしく。
その上、毎日かなり忙しくしているとのことで。
それならば食事の準備も大変だろうと思い、
おにぎり以外に「おばんざい」も店頭に並べていることを伝えれば、
それも欲しいと頼まれた。
・・・こうして。
私は期せずしてさらなる配達希望者から
注文を受けることとなったのである。
-その夜-
(・・・・・・。
もしかして。これって商売になるんやろか・・・。)
そんなことを考える小町さんの姿があったとか。
第6話へ続く。
おにぎり屋たんと【事業拡大編】~第四話~
土間から奥の部屋へと延びる通路の入り口には
藍色ののれんがかかっている。
そののれんをかきわけて声のした方へと進んで行く。
歩く通路は特に枝分かれしている訳でもなく、迷うことはない。
天窓から差し込む柔らかい光で明るく照らされていて
入り口ほど暗くもなく気持ちが良かった。
程なくして進んだ先、昔はおくどさんだったのだろうその場所には
今は台所がしつらえてあり、そこに目指す人物が立っていた。
いや、正確にはしゃがんでいた。
『ああ、ごめんなぁ。
今漬け物の様子を見ててな?手が離されへんかったんよ。』
そういう奥さんは笑いながらぬか床を混ぜている最中で。
側には今取り出したらしい胡瓜や茄子や人参が皿に盛られていた。
「わぁ、美味しそうですねぇ。奥さんずっと漬けてはるんですか?」
手にしていたおにぎりを一言断ってから部屋の上がり口に置くと、
目線を合わせるようにしゃがんでぬか床に目をやった。
『そうなんよ。お嫁にきた時に持たされてな?
それ以来ずっと漬け物は自分で漬けてるんよ。
ぬかの管理は生き物みたいなもんやから、大変やけどな。
自分の味って感じがして好きやねん。』
得意げに語るお馴染みさんの話にへぇ~、
と感心するように相づちをうった。
私もおにぎりの具に自家製の漬け物を使っているが、
実はそれは母のもの。
少し時間に余裕が出来たら、やりかたを教わって
自分で作ってみようかなと考える。
『市販のもんでも美味しいのあるけどなぁ・・。
最近ほら・・・色々あったやん?』
からからと笑うお馴染みさんの言葉に頷く。
うちの母も同じことを言っていたからだ。
『そんなんもあったからか、それやったら地元の野菜を使って
自分で作るほうが安心やんって余計に思うようになってん。
おねえちゃんのとこも具にえらい拘ってるやろ?
そやからあんたのとこのおにぎりは安心して食べれるし好きやで?』
「もう、いややわぁ。奥さん、
今褒めたって持って来た以上のおにぎりは出されへんのに。」
おおきに、と言いながら照れ隠しに軽口を叩く。
・・・・確かに、安全な食というものが求められているし。
一時期はおにぎりの具材にこだわりすぎだろうか
と色々悩んだこともあったけど。
無駄じゃないって言ってもらえたようで・・認めてもらえたようで嬉しかった。
そんな感じで配達に来たというより井戸端会議をしに来た状態になっていると。
『なんや、あんた居るやないの。返事くらいしよし。
外から声かけてるのに全然反応ないから勝手にあがらせてもろたで?』
さらに、近所の人が会話に加わることとなったのだった。
第5話へ続く。



